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うどんバトラー

 ぐう――。

 その場にいた全員が、目を丸くして桜咲の方を見やる。言うまでもなく、彼の腹の虫が鳴いたからだ。

  「ププッ。桜咲、もうお腹空いたの〜?」
「うっせ! 減るもんは仕方ねぇだろ」

 煽る来夏に、吠える桜咲。南雲原サッカー部にとってはいつもの光景だった。

 「まあまあ、桜咲先輩も成長盛りですし」
「お前は俺の何目線なんだよ……」
「それに、特訓の効率を上げるには食事をするのが一番ですから」

 腹がいっぱいになると、誰しも力が湧いてくるものだ。特訓前は商店街で食事をし、効率良く鍛える。それがサッカー部お決まりのルーティーンだった。

  「僕、今日はうどんがいいなぁ」
「この前もうどんじゃなかったか?」
「良いじゃないか。
「んじゃまあ、特訓前の腹ごなしと行きますか!」

 引き戸を開けた直後、威勢の良い大声が轟いた。

「いらっしゃ……おや、あんたたちかい!」
「おばちゃん、いつもの! 7人前ね」

 木曽路がそう伝えると、満面の笑みで「あいよ!」と返事をするうどん屋の女店主がいた。
 いつものカウンターに、7人が腰掛ける。

「ところで、今日は桜咲先輩の奢りですか? なーんて」
「あ?」
 桜咲が目を丸くすると、冗談だったのだろう。木曽路は慌てて訂正した。

「ちょっとしたジョークですって!」
「いや、別にいいけどよ。俺の奢りで」
「へっ、良いんですか!?」

 流石は御曹司と言うべきか、桜咲はこう見えて気前がいい。

「やりぃ! ゴチになりまーす、桜咲くん♡」
「ごちそうさまです」
「すまないね、桜咲くん」
「ありがとうございます、桜咲先輩――」

 沸き立つ部員たちをよそに、それまで傍観していた柳生が口を挟んだ。

「まぁ待て、桜咲……。お前とは、いずれ決着をつけねばと思っていた」
「……は?」
「俺も父の傍ら、黙って奢られるわけにはいかんのでね」
「……そうかよ」
「――で、何で決闘しようってんだよ。うどんが伸びちまうぞ?」
「フ、決まっている……」

「――うどんバトルだ」
「何!?」

「うどんバトル……どちらが早く、かつ美味しくうどんを完食できるかの勝負――……ですね」
「そうなの!?」

 至って冷静に分析する雲明に、状況を飲み込めない(うどんだけに)木曽路が反射的にツッコミを入れた。

「味わって食べた方がいいのでは……?」

 四川堂の素朴な疑問に、木曽路が「そうそれ」と言わんばかりの顔をしている。

  「うどんはコシが命の料理です。時間が経てばコシは失われてしまう……だから、食べるスピードは大事なんです。1番美味しい状態でうどんをいただく、これがうどんに対する最大の敬意です」
「なるほど」

 秒で納得した四川堂を見て、やはり雲明を言い負かせられるのは千乃会長だけなのだと、木曽路は思い知った。

   


あとがきなど